アウトプットが脳を活性化させる
私は精神科医として診療をする傍ら、著書やメールマガジン、YouTubeチャンネル、講演などを通じて、わかりやすい精神医学や心理学、メンタルヘルスの情報を発信し、メンタル疾患や自殺を予防するために活動しています。
精神医学的には、言霊、つまり言葉の力は非常に重要です。例えば、カウンセリングは、患者さんの話を聞いて、カウンセラーが言葉を返すことで治療していきます。言葉の持つ癒しの力をうまく使っているのです。
また、私がふだんお勧めしている行動のアウトプット(※1)は、「話す・書く・行動する」こと。このうち、話すことと書くことは、言葉を使います。
なんとなく頭の中で思うのと、言葉にして話したり、書いたりするのとでは、脳に対する刺激に大きな差があります。
※1……学習や経験によって得た学びを、発言や活動に反映させること
ただ思うだけでは忘れていくし、意識もできません。しかし、言葉にして話したり書いたりすると、脳が活性化され、意識が強化されて記憶に残りやすくなります。すると、自分の認識や行動が変わって成長し、人生が変わっていくのです。
いくら本を読んでも、その内容を人に話したり、書いたり、行動したりしなければ、人生は変わりません。言葉にして話したり、書いたりすることが、人間の成長において非常に重要な意味を持つのです。
自分を変えたかったら、特に話す言葉を変えるのが有効です。言葉には、ネガティブなものとポジティブなものがあります。
心理学には、「同属性の法則」というものがあります。「類は友を呼ぶ」と言うように、人は自分と似た性格傾向の人を好みます。ネガティブな言葉を使う人は、ポジティブな言葉を使う人と一緒にいると、居心地が悪いのです。
結果、人の悪口や否定的な言葉を好む人のもとには、似た人たちが集まります。ネガティブな言葉を使っていると、ネガティブな人を呼び寄せるため、人間関係にまつわるトラブルに巻き込まれやすいのです。
また、ネガティブな言葉により、不安や怒りを感じると、脳の扁桃体が興奮し続けてしまいます。扁桃体に休む暇がないと、うつになるなど心身の健康が損なわれる危険性があるのです。
さらに、扁桃体などの古い脳は言葉の主語を理解しないので、たとえ当人が言っているのが他人の悪口であっても、自分が言われているのと同じ心理反応が起きることになります。すると、それが脳にダメージを与えて、ストレスを増やしてしまうのです。
よく、悪口を言うと、ストレスが発散できると思っている人がいるのですが、最近の研究では逆であることがわかってきています。人の悪口を言えば言うほど、ストレスが増えていくのです。
反対にポジティブな言葉を使うと、前向きでポジティブな人や信頼できる人が集まってきます。言葉を変えるだけで、人間関係が変わったり、円滑になったりするのです。
人間の幸せのうち、一番重要な幸せは、やはり健康の幸せです。メンタルにおける健康とは、幸せの脳内物質セロトニンが分泌され、さわやかな気持ちになることです。
例えば、朝、散歩をしたり、朝日を浴びたり、森林を歩いたりしているときに感じる清々しさは、非常に重要な幸福感です。ところが、健康の幸せは皆あたりまえのことと思いがちで、失ってから初めて気づくことが多いのです。
そこで、私は朝、通勤で歩くときに天気がよければ、「今日も天気がよくて、気持ちがいいな」「さわやかな風が気持ちいいな」などと言葉にするようにしています。
そうすると、つい見過ごしがちな健康の幸せを強化することになり、「幸せ発見能力」を高めることにもなるのです。
今すぐやめて! 運を落とす口ぐせ
そこでまず、今すぐやめるべきネガティブな口ぐせをご紹介します。
●「無理」「どうせ」「でも」
「無理」は、言った瞬間に思考が停止してしまう口ぐせです。やり方や手順を変えればできる可能性を、0にしてしまいます。さらに助言をくれた相手のことも嫌な気持ちにさせてしまいます。
「どうせ」も「どうせ○○できない」と否定の言葉につながり、いい言葉を続けようがありません。
ネガティブ思考の典型なので、すぐにやめましょう。「でも」「だって」も、やらない前提の言い訳が続く言葉なので、今すぐやめたほうがよいでしょう。
とはいえ、ネガティブな言葉を絶対に言ってはいけないわけではありません。ポジティブ心理学(※2)では、弱音を吐かないでいると、余計につらくなることもあるので、弱音も必要であるとされています。
※2……個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する、心理学の一分野
例えば、嫌な出来事があったとき、人に話すか、ノートに書いて吐き出すかを1回だけ行うと、ものごとが「一件落着」するので、きれいさっぱり忘れやすくなります。
逆に2週間のうちに3回以上、同じことを話したり、書いたりすると、脳はそれを必要な情報だととらえ、かえって記憶に残り、忘れられなくなってしまうのです。
そのため、ガス抜きに弱音を吐くときには、「1回だけ」アウトプットすることを心がけましょう。また、ネガティブな言葉や弱音を1回だけ言ったあとは、ポジティブな言葉をその3倍以上は言うようにしましょう。
ポジティブな言葉とネガティブな言葉には、適切な比率があります。ネガティブな言葉1に対して、ポジティブな言葉を3以上にすると、人間関係を含め、ものごとがうまくいくようになります。さらにその比率を1:5以上にすれば、飛躍的にうまくいくようになるのです。
夫婦関係を10年ほど追跡した研究では、夫婦間で交わされる会話のうち、ネガティブな言葉とポジティブな言葉の比率が1:3を下回ると離婚率が非常に増えることがわかりました。
また、1:3以上なら夫婦仲は非常にうまくいき、1:5以上なら離婚率はほぼ0だと判明しています。
不運を幸運に変える口ぐせ
次に、日常の不運をポジティブに切り替えられる口ぐせを紹介しましょう。
●「とはいえ」「まあいいか」
「とはいえ」は、私も好きでよく使う言葉です。例えば、「人から意地悪をされて嫌だった。とはいえ、もう終わったことだ」などという風に使います。
このようにネガティブな言葉があったあと、「とはいえ」を入れて、ポジティブな言葉を続けると、最終的にポジティブな気持ちに切り替えられるのです。
また、「まあいいか」という言葉もお勧め。何か失敗したときに、起こってしまったことにこだわり続けたり、くよくよしたりしても、エネルギーの無駄です。
そういうときには、「まあいいか」と言って、感情を流すようにします。ふだんから、こうした言葉のボキャブラリーを持っておけば、何かあっても立ち直りが早いのです。
実はどんな人にも、1日のうちにつらいことも楽しいことも同じくらい起こっています。ところが、寝る前に今日つらかったことを思い出しがちな人がいます。メンタル疾患の患者さんなどは、特にその傾向が強く出ます。
1日の終わりの寝る前15分は、すんなり記憶できる脳のゴールデンタイム。そこで、嫌なことを思い出して、日々、脳に焼き付けていると、当然人格形成にもかかわってくるし、心身の具合も悪くなってしまいます。
そこで、ポジティブ思考になり、大開運するトレーニングとしてお勧めなのが「3行ポジティブ日記」です。こちらについては後編でご紹介します。
(後編に続きます)