死後の行き先を決める「地獄の十王」の一王
そもそも閻魔さまというのはどのような存在なのでしょうか。子どもの頃に、「嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれるよ」と言われたことがある人も多いでしょう。
地獄という概念はさまざまな形で世界的にありますが、閻魔さまの起源は、古代インドの信仰において、人類で最初の死者となり、死者が進む道を見出した死者の国の王、ヤマとされています。
その後、仏教に取り入れられて地下の暗黒世界の主、閻魔天となり、中国に伝わると冥界の王、また地獄の裁判官である十王の一王にしてその中心的存在と考えられるようになっていきます。
日本では、それが伝わって神道などとも習合した形で、閻魔さまは死後の行き先を決める地獄の十王の五とされています。
人をはじめ、この世に生けるものは没すると中陰と呼ばれる存在になり、命日から数えて49日までは7日ごとに、十王の審判を順に受けます。
いわゆる初七日や四十九日といった法要は、それぞれの裁きの時期に沿ったもので、浄土真宗を除いては十王に減罪を嘆願し、救済を求める意味があります。
閻魔さまは、諸王の取り調べを踏まえて、死者が六道と呼ばれる、地獄を含めた6つの世界のうちのどこに転生するかを決めます。
閻魔さまの法廷には、死者の生前の行為が残さず記録され、上映もできるという、浄玻璃鏡と呼ばれる鏡があり、嘘をついても見破られるとされます。
「嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれる」とは、嘘そのものが罪とされるうえ、閻魔大王の審判で嘘をつこうものならこの浄玻璃鏡に映し出されて真実を突き付けられ、その場で舌が抜かれるという戒めです。
裁きもするが救済もしてくださる閻魔さま
さて、では冥土で裁きをする閻魔さまを、なぜこの世にいる人が盛んにお参りするのでしょう。1つは、因果応報という概念からです。
物事には原因と結果の関係があり、過去の行動が原因となって、次なる運気を左右します。
因果応報は現世にいる間だけにあるのではなく、死後に住む世界もまた因果応報、生前の行いによって閻魔さまに決められ、地獄に落ちれば責め苦を受けることになります。
そこでお参りをして、もし自分が裁きに立たされたら、どんな判決が下されるかと自分の行動を振り返り襟を正したり、罪を犯していたならば供物を届けて反省を告げたりするのです。
もう1つは、本地垂迹という日本の神仏の考え方において、閻魔さまは地蔵菩薩の化身とされていることにあります。
お地蔵さまの名は、大地が命を育む力を蔵するように、苦悩の人々を大慈悲の心で救うことからきています。六道を巡り、人々の苦難を身代わりとなり救います。つまり、閻魔さまは裁きもしますが、救済もしてくださるのです。
お地蔵さまは、道祖神、守り神として至るところにおられますが、それは閻魔さまが何でもお見通しなこととも関連しています。
閻魔さまは怖い存在とされていますが、恥じることのない生き方をすれば、まさに仏のような存在なのだと見ることもできるでしょう。
次の項目では、自分の生き方を振り返るきっかけとなる仏道の極楽地獄の世界観を見ていきます。
(次回③に続きます)