座る時間が長い人は寿命が短い
ほとんどの病気は、歩くだけでよくなります。このことを広く知ってもらうために、私はこれまでこのテーマで6冊もの本を書いてきました。
「たくさん歩いてくださいね」「歩いたら、よくなりますよ」当院の患者さんにも、繰り返しお話しします。あまりに言いすぎて、「先生、もう聞き飽きました」と、あきれられていますが、重要なことだからこそ、言い続けているのです。
人間は本来、歩く動物です。しかし、現代は乗り物が発達し、デスクワークが主流となり、歩く機会は極端に減りました。
座る時間が長くなると、生活習慣病の発症や悪化のリスクが高まり、寿命が短くなることは、さまざまな研究で明らかになっています。
つまり、動かずにいることは、万病のもと。現代人は動かないから、病気になっている、といっても過言ではありません。
そこで、運動の時間を意識的に設けることが必要となります。いろいろある運動の中で、簡単で、誰でも、無料で実践できるのが「歩くこと」です。
歩くだけでよくなる患者さんを、私はこれまで山のように見てきました。例えば、ひどい物忘れと、うつ症状があったAさん(60代・男性)。精神科でうつ病と診断され、抗うつ剤を数種類処方されたそうですが、「まったくよくならない」とのことで、来院されました。
症状を伺うと、「壁に小さい人が見える」とのこと。これはレビー小体型認知症(※1)でよく見られる「幻視」という症状です。物忘れとうつも、認知症の初期症状と考えました。
※1:アルツハイマーに次いで2番目に多い認知症で、幻視や睡眠時の異常行動が特徴
そんなAさんに、歩くことを勧めたところ、毎日、朝と夕方に、奥さまと散歩されるようになりました。すると、それだけでうつ症状がなくなり、抗うつ剤は不要に。物忘れは年相応となり、認知症の症状は見られなくなったのです。
血行がよくなりやせる!免疫力もアップする
なぜ歩くと、いいのでしょうか。その主な効能を以下に紹介します。
①骨や筋肉が丈夫になる
歩くと、骨に重力の負荷がかかります。この刺激によって、骨を作る細胞の働きが活発になることがわかっています。
歩くのは全身運動ですから、筋肉も自然に鍛えられます。これにより、腰痛やひざ痛の予防改善効果も期待できます。
②血行がよくなる
歩くと血の巡りがよくなり、全身の細胞に酸素と栄養が行き渡るため、冷えが解消します。
また、歩行などの運動をすると、血管内で「血管内皮増殖因子」という物質が放出されます。これによって、血管の修復や新生が促されることもわかっています。
③脳の血流が増える
脳の血流は、加齢とともに低下します。すると脳機能の低下を招きますが、歩くことで、脳の血流はよくなります。
うれしいことに年齢に関係なく、歩けば、脳の神経細胞も増えます。特に、頭を使いながら歩くことは、認知症の予防改善に効果的。このやり方は後に紹介します。
④自律神経が整う
歩くと、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスが整います。自律神経のバランスが崩れると、精神の不調やホルモンバランスの乱れなど、さまざまな不調が起こるので、それらの予防改善ができます。
胃腸の機能も自律神経のコントロール下にありますから、逆流性食道炎(※2)、過敏性腸症候群(※3)、便秘などもよくなります。
※2:胃液や胃に入った食物が食道に逆流して、食道が炎症を起こし、胸焼けや胸の痛みなどを起こす病気
※3:大腸に炎症や腫瘍などの異常は見当たらないが、下痢や便秘、腹痛を繰り返す病気
⑤ホルモン分泌が活発になる
歩くと、脳内で「セロトニン」や「ノルアドレナリン」というホルモンが増えます。
うつ病は、これらのホルモンが不足する病気。ですから、歩くことで、うつ病はよくなります。不眠も歩くことで改善します。
午前中に歩いて日光を浴びると、夜間、睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌が活発になります。たくさん歩けば、その疲れによって睡眠の質も上がります。
⑥免疫機能が活性化する
歩行などの軽い運動で、免疫細胞の活性が高まることが、さまざまな研究でわかっています。
特にお勧めは、日中の屋外を歩くこと。日光に当たれば、体内で、免疫反応をコントロールするビタミンDの産生が活発になります。また、紫外線に当たると、ウイルスが不活化するという利点もあります。
これらを考え合わせると、新型コロナウイルス感染症予防のために、室内に閉じこもるのは、逆効果といえるでしょう。
⑦やせる
歩くことを習慣とすると、やせます。糖尿病、高血圧などの生活習慣病は、体重を減らすだけで驚くほどよくなります。食事の改善とともに、歩くことも実践しましょう。
以上のように、歩くことはいいことずくめ。私の治療経験では、ぜんそくなどのアレルギー疾患、リウマチなど自己免疫疾患、パニック障害なども、よくなります。
これらは異なった病気に見えますが、「甘い物が好きで、動かない人がなりやすい」という共通点があります。ですから、砂糖を控えて、歩くと、それだけで改善します。
私は、食事と運動で、根本的な改善を目指すのが、本来の医療だと考えています。現在の医療は、まず薬ありき。生活習慣病など慢性的な病気は、薬を飲み続けることがあたりまえとなっています。
しかし、薬には必ず副作用があります。特に、副作用が出やすい薬に、睡眠薬や抗うつ剤が挙げられますが、前述したように、これらの病気は、歩けば劇的によくなるのです。
副作用のある薬と、歩いて根本的によくする方法の、どちらがいいか考えれば、答えは一つ。真の健康を手に入れるために、今日からぜひ、歩きましょう。
下腹を引き締めて背すじを伸ばし腕を後ろに引く!脊椎ストレッチ歩きのやり方
自分の歩く姿を動画に撮ってもらうとよい
ご自分の歩いている姿を見たことがありますか?私は診察の一環として、患者さんの立ち方や歩き方を観察します。それで、その人の老化具合や生活が推し量れるからです。
皆さんもスマホや携帯で、ご自分の歩いている姿や後姿を、撮ってもらってください。できれば、動画で。しかも自分が気づいていないときに撮ってもらうとよいでしょう。
たいていの人が「自分はこんな老けた歩き方をしていたのか!」と、がく然とするはずです。自分ではモデルのようにと歩いていたはずが、あごが前に突き出て、腰が曲がって、ガニ股で……という現実を突きつけられてショックを受ける人も少なくありません。
でも、自分の歩き方を客観的に見て、特徴がわかれば、修正すればいいだけです。私は歩き方の専門家ではありませんが、歩くことを勧めている手前、自分なりに正しい歩き方を研究するようになりました。
ここでは、患者さんにお勧めしている「ストレッチ歩き」をご紹介します。脊椎(せきつい)とは、背骨のことです。なので、背骨がグーッと伸びるような歩き方をします。
脊椎ストレッチ歩きは、次の3点を意識して行うとよいでしょう。
①下腹を下から持ち上げるように引き締める
②頭頂部をひもで引き上げられたつもりで、背すじをしっかり伸ばし、軽く胸を張る
③ひざを軽く伸ばし、足先を引き上げて、かかとから着地。そのかかとの上に素早く、腰をのせる
慣れてきたら、この3つのポイントに、さらに腕の振りをプラスします。腕を振るというと、一生懸命、前に振る人が多いのですが、そうではなく、ひじを後ろに引くように意識します。
これで、肩甲骨が大きく動きます。肩甲骨の周りは、全身の中でも筋肉が多い部位なので、この動きを加えるだけで、上半身の筋肉が動き、歩くだけで全身の筋肉が鍛えられます。
正しい歩き方ができていない人は、立つ姿勢も悪いことがほとんどです。立つときは、次の3点を意識しましょう。
①丹田(たんでん)(おへその少し下あたり)を意識する
②肩甲骨を寄せて、胸を少し開く
③お尻の穴をキュッと締めて、お尻を引き上げる
これで、あごから肩、おなか、腰、足の位置がきれいにそろった、正しく美しい立ち姿となります。
〈立つときはこの3点を意識!〉
脊椎ストレッチ歩きのやり方
①ひざを軽く伸ばし、足先を引き上げてかかとから着地する
② そのかかとの上に、素早く、腰をのせる
③反対の足で①、②を同様に行い、これを左右交互に行う。慣れてきたら、ひじを後ろに引くように意識して、腕を振って歩く