ゆほびか ゆほびか
  • 文字サイズの変更
  • 大
  • 中
  • 小
  • SNS
  • twitter
  • facebook
  • instagram

【焚き火は人の心を開く】研修や教育の場でも生きる「焚き火の音」の魅力

「皆で焚き火を囲むと、穏やかに本音を話し合える」と三宅さん

焚き火には人の心を開き心身を癒す効果がある

私は焚き火を介したコミュニケーションの場づくりを目的とした「日本焚き火コミュニケーション協会」を主宰し、私自身も「焚き火場づくり師」として活動しています。

具体的には、初心者向けの焚き火体験講座や、企業団体向けの教育研修、焚き火イベントプロデュースなどを行っています。

焚き火を仕事にして10年以上になりますが、実は焚き火に惹かれる人はたくさんいます。なぜなら、焚き火には人の心を開き、心身を癒す効果があるからです。

私が焚き火の魅力に気づいたのは、私自身の紆余曲折の人生と関係があります。

大学卒業後、大手電機メーカーに就職し、30代半ばで幹部候補生になりましたが、会社のCEO(最高経営責任者)に直言したことで反感を買い、左遷、降格、パワハラを受け、どん底を経験しました。

その後、ベンチャー企業の立ち上げに参画するも倒産。中小企業に入社し営業トレーナーを経て、ビジネスマンのためのコミュニティ型スクールを運営するようになりました。

スクールでは、働き方にモヤモヤを抱える2000人超のビジネスマンと対話をしました。その中で、私はあることに気がついたのです。皆、「すなおな自分を出して、本音で話し合える場」が不足している、と。

私は、働く人が心を開いて、本当の自分が出せる場が必要だと感じました。しかし、既存の教育システムや人材育成プログラムに、それに合うものはありませんでした。

何かいいアイデアはないか……と思案しているうちに、学生時代のことを思い出しました。当時、私は野外活動研究会に所属し、全国の山や海へ行き、夜になると必ず焚き火を焚いていたのです。

不思議なもので、焚き火を囲んで皆と話すと、普段は話さないようなことまでしみじみと語ってしまいます。それで相手の新たな一面を知り、さらにお互いを理解し合う――そんな空気感が好きだったのです。

そこで私は、「そうだ、焚き火がコミュニケーションづくりに役立つのではないか」と思いつきました。

焚き火の前では本音の自分が出せる


焚き火が人の心を開くのには、大きく2つの理由があると思います。

まず一つは「相手の顔を見ずに話せる」ということ。焚き火を囲んでいると、人の顔ではなく、揺れ動く炎を見つめながら話します。これが心の緊張感を解き、話しやすい空気をつくります。

もう一つは、「沈黙が許される」こと。話が途切れても、無理に話題を探さず、ボーッと焚き火を見ながら、薪のはぜる音に耳を傾ける。そして、また話したくなったら話せばいい。焚き火の前では、そういう緩やかなコミュニケーションができるのです。

焚き火コミュニケーションを体験した人たちからは、「常日頃、体験できない雰囲気でゆっくり過ごせました」「普段話さないことまで話しちゃいました」「心が和んで、優しい気持ちになれた気がします」「いい時間が過ごせて、幸せな気持ちになれました」などの感想をたくさんいただいています。

実際に、焚き火を経験した前と後では、皆さんの表情がガラリと変わります。表情が硬かった人、暗かった人も、柔和で穏やかな表情になるのです。

「はぜる音」が人間の内側に響く


焚き火は、見るだけでなく、五感すべてで感じることができます。中でも「聴覚」は焚き火を楽しむうえで重要です。

コロナ禍に入り、「リアルに集まれないけれど焚き火がしたい」という人のために、オンラインで「焚き火談話室」というのを行ったことがあります。

これはグループ通話をしながら、画面は焚き火の動画を表示して、それを見ながら話すというもの。リアルの焚き火には及びませんが、それでもかなり満足いただけたようで、「焚き火のはぜる音が印象的でした」という声も複数聞かれました。

「パチパチッ、パチッ」という焚き火のはぜる音、私はこの音が人間の内側に響くと考えています。火が見えていなくても、この音を聴くと「焚き火の音だ」とわかります。

このはぜる音は、薪に残った水分が水蒸気爆発している音です。薪の種類、昼か夜か、その日の天候や場所などによって、はぜ方が違い、音も変わります。定番の焚き火の音のようで、実は二度と同じ響きはない、一期一会な音なのです。

焚き火の音のような規則性のない自然界の音は、「1/fゆらぎ」と呼ばれ、心を落ち着かせ、鎮静効果があると言われています。

今回の『ゆほびか』の付録「焚き火の癒し音楽CD」では、この音をいつでも楽しむことができます。焚き火の音で心身を癒しながら、できればちょっと時間を見つけて、焚き火をしに出かけてみてください。

「そうだ、焚き火をしよう」──。

この記事は『ゆほびか』2023年3月号に掲載されています

関連記事