カロリー制限はナンセンス!
主治医から「やせないと生活習慣病になりますよ」といわれ、食べ放題のステーキを横目で見ながら、ざるそばを食べる。
そういう人が、今の日本にはおおぜいいるでしょう。そんなに我慢してもやせないうえに、血糖値が上がり、体調も悪くなる一方……という悲劇があちこちで起こっています。
それはなぜでしょうか?
太る原因は血糖値を上げる糖質であり、ざるそばの主成分も糖質だからです。
脂身たっぷりのステーキは、いかにも太りそうに見えるかもしれませんが、主な栄養素はたんぱく質と脂肪なので、どれだけ食べても血糖値は上がらず、太ることもありません。やせたいなら、ざるそばよりステーキを食べるべきなのに、その逆をやるために、悲劇があとを絶たないのです。
現在の日本では、そんな誤った知識が多く広まっています。そうした誤りに陥らないためには、第1に、「生化学」(体内のさまざまな物質についての合成や分解、代謝のメカニズムについて化学構造式により解明する学問)をベースにすること、第2に、最新の研究結果を基に語ることが大事です。
私は、現在は糖尿病専門医ですが、長年、大学などで生化学の研究を行ってきました。また、世界中で発表される最先端の医学論文を、くまなく読むことを趣味としています。そんな私から見ると、あまりにもおかしな食の知識がまかり通っています。
そこで、誤解を解いて、ぜひ真実を知っていただきたい3つのテーマについて、以下に解説しましょう。
太るのは糖質によってのみ!「カロリーや脂肪で太る」は大間違い
先のステーキとざるそばの話にも関連しますが、肥満ぎみの人に対して、いまだに広く行われているのが「カロリー制限」指導です。体のカロリー(エネルギー)となるのは、糖質のほか、脂肪やたんぱく質ですが、カロリー制限指導では、特に脂肪の制限を勧められます。
1g当たりのカロリーが、糖質とたんぱく質は4㎉なのに対し、脂肪は9㎉なのに加え、何よりもそのイメージから、「脂肪をとると太る」という思い込みがあるのです。
脂肪細胞の中身は脂肪ですが、私たちの体は、「食事で脂肪をとったからそれが貯まる」という単純なものではありません。
体脂肪が増えるのは、過剰な糖質を取って血糖値が上がり、それが脂肪に変えられて蓄えられるからです。カロリーと脂肪を制限しても、一定以上の糖質をとっている限り、空腹に苦しむだけでダイエット効果は得られません。
逆に、じゅうぶんなレベルまで糖質を控えれば(肥満解消には1日60gがベスト)、どんなに脂身のついた肉などをたっぷり食べてもやせていきます。これが、最新の研究でも明らかになっている「肥満の真実」です。
「カロリー理論」で目の敵にされている脂肪は、実は日本人に不足気味であり、しっかりとるべきであることもわかっています。
糖質は単なるエネルギー源に過ぎませんが、脂肪は細胞膜やホルモン、神経伝達物質、脂溶性ビタミンなど、重要なものの材料として不可欠です。
以前は、植物性脂肪が重要で、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸は控えるべきだといわれていましたが、現在では、どちらも同様に重要であることが判明しています。
筑波大学などが日本人を対象に行った研究では、肉をたくさん食べ、飽和脂肪酸を多くとった人ほど、それらを控えて糖質を多くとった人より、血圧は低く抑えられ、脳卒中や心筋梗塞が少なかったという結果が出ています。
脂肪は、糖質とともにとることで、血糖値の上昇を抑える効果も発揮してくれます。
●脂肪分が血糖値の上昇を抑制する
上のグラフは、パンだけを食べたときと、パンにバターやオリーブオイルなどを塗って食べたときの血糖値の上がり方を示したものです。
脂肪といっしょにとるほうが、血糖値が上がりにくいことが明確に示されています。「脂肪は太る」ではなく、むしろ「太りにくくしてくれる」ことがわかります。
脂肪も300g以上とれば太りますが、実際にはそんなにとれるものではありません。それ以下であれば、前述の通り、脂肪は体内でいろいろなものの材料に使われるうえ、実は体に吸収されにくい栄養素なので、過剰になる心配はありません。
脂肪は敬遠しないで、体のため、あるいはダイエットのために、おいしくたっぷりとりましょう。
コレステロールにまつわるひどい誤解
「コレステロール値が高いから、卵や肉を控えてください」健診などで血中コレステロール値が高いと、こんなふうに言われることがあります。
特に女性は、閉経後にコレステロール値が上がりやすくなり、こういう間違った指導を受けることが多くなるようです。
しかし、現在では、体内のコレステロールの大部分は肝臓で作られており、食事からのぶんは1~2割程度に過ぎないことがわかっています。つまり、食事でコレステロール値をコントロールしようという努力は、ほとんど報われないわけです。
コレステロールは、細胞膜や胆汁酸※、ホルモンなどの材料として非常に重要な物質です。そのため、食事で入る量に依存せずに、体内で作られるしくみになっているのです。
コレステロール値が高くて対処が必要な場合は、医療機関で適切な治療を受けるようにしてください。食事でのコレステロール摂取量を減らすという無駄なことと引き替えに、優れた栄養素を含む卵や肉を控えるようなことはやめましょう。
たんぱく質はサプリではなく食事から!
最近、筋肉をつける目的で、サプリとしてのプロテイン(粉末や液体)をとる人が増えています。
若者だけでなく高齢者にも、体力維持を目的として通うスポーツクラブで、トレーナーから勧められてプロテインをとる人が少なくないようです。「運動する人にはたんぱく質が必要だから」と説明されているようですが、ここには大きな危険性があります。
たんぱく質は体の材料になる重要な栄養素ですが、分解の過程で尿素などの毒素が生じます。この毒素は、腎臓の濾過機能によって尿として排泄されます。
そのため、たんぱく質を過剰にとれば、それだけ腎臓に負担がかかるのです。もっとも、健康な人が食品からとるなら、過剰になることはまずありません。
ところが、粉末などのプロテインをとると、通常の食品ではあり得ない高濃度のたんぱく質が一気に体に入ります。それを続けると、腎臓を壊す恐れが大きくなります。
2020年の『Lancet』の発表では、日本には慢性腎臓病(CKD)の患者さんが、国民の25%に当たる2100万人もいます。そのほとんどの人は、腎臓が悪くなっていることに気づいていないと見られています。
普通の人でも腎臓の負担になるプロテインを、腎臓が悪くなっていることに気づいていない人がとれば、慢性腎臓病を大きく悪化させます。
当院の患者さんでも、腎臓機能の指標となる尿アルブミン値が急激に上がり(悪化)、思い当たることがないか聞いてみたところ、プロテインを飲んでいることがわかった人が何人かいます。
いずれも、プロテインをやめてもらうと元に戻っていきました(上のグラフ参照)。アスリートではない一般の成人が、運動したからといってたんぱく質の摂取を増やす必要はまったくありません。普通の食事でとる量でじゅうぶんです。プロテインをとって、腎臓を危険にさらすことはやめましょう。
どうしてもプロテインをとりたい場合は、せめて病院で「尿アルブミン値」を調べ、腎臓機能が正常であることを確かめてからにしましょう。