持って生まれた体質や遺伝頼みは効かない
「私はもともと丈夫だから」
「がんの家系ではないから」
と、ご自分の体に無頓着な人がいますが、これは危険な考え方です。遺伝と寿命の関係については、これまで世界中で多くの研究がなされており、親からの遺伝の関与は意外に少ないことがわかっています。
両親が長寿だからと安心はできませんし、逆に両親が短命だからと悲観する必要もありません。
そもそも日本人の2人に1人ががん、中高年者の3人に1人が糖尿病かその予備群になる今、「家系」がほぼ意味をもたないことはおわかりでしょう。
最近、「エピジェネティクス」という研究分野が注目を集めています。そのポイントをごく簡単にいうと、持って生まれた遺伝子は、すべてがそのまま使われるわけではなく、「メチル化」という化学反応によって、必要のないものはスイッチオフになるということです。
その「メチル化」に異常が起こると、病気を引き起こすことになります。メチル化に異常を起こす要因としては、加齢など避けられないものもありますが、生活習慣も影響することがわかっています。
最近の研究によれば、好影響を与える生活習慣として、「鶏肉、魚、果物や野菜、適量のアルコールの摂取、運動」、悪影響を与えるものとして「インスリンや血糖値の上昇、慢性の炎症、肥満、中性脂肪の上昇、高血圧」などが挙げられています。
こうした観点からも、ここまでに述べた食事法のたいせつさがおわかりいただけるでしょう。
しかし、どんなにいい食事法を実践しても、100%病気にならないというのは無理な話です。そこで重要なのが、定期的に検査を受けて、病気を早期発見することです。
日本人の死因の多くを占める「がん」「心筋梗塞」( 心臓の血管が詰まって起こる病気)「脳卒中」(脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳が障害を受ける病気)は、検査で初期症状や兆候を発見することで、有効な治療や予防が行え、それらで命を失うことはほぼ防げます。そのためには、以下の3つの検査を毎年受けてください。
●胸部と腹部のCT検査
甲状腺、肺、肝臓、膵臓、胆のう、腎臓、膀胱、卵巣などのがんが早期発見できます。心筋梗塞のリスクについてもわかります。つまり消化器以外のほとんどのがんと心筋梗塞はこれでチェックできます。
●胃と大腸の内視鏡検査
消化器の粘膜を直接見る検査で、食道、十二指腸、大腸などのがんが早期発見でき、ごく早期なら同時に切除もできます。
●脳のMRI検査
脳血管の動脈瘤や小さい脳梗塞(※3 脳の血管が詰まって起こる病気)、脳腫瘍などを見つけることができます。また、脳の海馬という部分の萎縮度を調べることで、認知症を早期に見つけて対策を講じることもできます。
今回、ご紹介した食事法を実践するとともに、これらの検査を定期的に受ければ、9割以上の人が元気に100歳を迎えられると私は考えています。今後、さらに医学が進歩すれば、人間の本来の寿命とされる120歳まで、平均寿命を伸ばすことも可能だと思っています。
日本で増加の一途の人工透析を避けるには?
そしてもうひとつ、ぜひ対策を知っておいてほしい病気があります。それは、「慢性腎臓病」です。これは腎臓の機能が慢性的に衰える病気で、悪化して最終段階になると、週3回、1回5時間かけて、腎臓の機能を機械で行う「人工透析」という治療を受けなければなりません。
それによって命は助かるものの、著しくQOL(生活の質)が下がり、しかも寿命も短くなる病気です。
この慢性腎臓病で透析を受ける患者さんが、今の日本では増加の一途をたどっています。新たに透析を受け始める患者さんが毎年4万人ほどいるのです。透析は高額な治療ですが、ほぼ全額が医療保険でまかなわれるため、医療費を圧迫し、その点でも危機感を持たれています。
私は、糖尿病専門医として、「自分の患者さんを絶対に透析患者にはしない」、と決意して研究と臨床を続けてきました。
糖尿病が悪化すると、合併症のひとつとして腎臓病(糖尿病性腎症)が起こり、進行すると透析が必要になります。それを防ぐために力を注いできたのです。
「尿アルブミン値」を調べることが第一!
そんな私から見ると、現在、1年間にふえている4万人もの新規・透析患者さんは、実は簡単にゼロにできます。これにはまず、腎臓機能の検査として、「尿アルブミン値」を調べることが第一です。
健診などでは腎臓の検査として「クレアチニン値」を調べますが、この数値は、腎臓の機能がほぼ手遅れになるほど悪化しないと異常値になりません。
クレアチニン値が異常になると、通常、その2年後には透析が必要になるので、透析を回避するための検査としては役に立たないのです。
クレアチニン値と性別・年齢から計算する「eGFR(推算糸球体濾過量)」という検査値は、クレアチニン値よりは役立ちます。しかし、それ以上に、最も早く腎臓の異常がわかるのが尿アルブミン値なのです。
尿アルブミン値は、18㎎/ℓ(以下単位略)以下が正常で、300を越えると透析を避ける治療が難しくなり(手遅れ)、6000を越えると透析が必要と判断されます。
糖尿病患者さんを初め、糖尿病でなくても腎臓機能が心配な人は、病院で尿アルブミン値を調べてもらいましょう。
もし「そんな検査は必要ない」と言われたら、病院を変えてでも受けてください。その結果、異常値が出たら、腎臓の専門医にかかることをお勧めします。
慢性腎臓病がかなり悪化して尿アルブミン値が300を超えた患者さんについては、2012年に、一般的には降圧薬(血圧を下げる薬)として用いられているスピロノラクトン(主な商品名:アルダクトンA)が劇的な効果をもたらすという論文が出ました。
ちょうどその頃、私は他院で「もうすぐ透析治療を受けるしかない」と言われた尿アルブミン値が5000台の患者さんから、「透析は受けたくない。何とかしてくれ」と泣きつかれていました。
スピロノラクトンは、それまで腎臓病には禁忌とされていた薬でした。そのため、恐る恐るでしたが、ほかに手段もないので、この患者さんに処方してみたところ、見事に効いて、透析を回避できたのです。
ほかにも、テルミサルタン(主な商品名:ミカルディス)、アゼルニジピン(主な商品名:カルブロック)など、やはり降圧薬ですが、慢性腎臓病に効果的なことがわかってきた薬があります。
私はこれらの薬を組み合わせて、尿アルブミン値が1000~2000程度になった患者さんたちを治療し、透析治療を回避することに成功しています(下図参照)。腎臓の専門医であれば、こうした薬を使った治療もしてくれるはずなので、早めに相談しましょう。
たいせつな腎臓の機能を守り、透析を回避するために、ぜひ尿アルブミン値の検査も受けましょう。
●透析治療を回避できた患者の尿アルブミン値推移
(おわり)
血糖コントロールに役立つ器具・リブレ
糖質をコントロールするサポートとして役立つのが、簡単な方法で血糖値を測定できる「リブレ」(販売:アボットジャパン)という計測器です。上腕に500円玉大のセンサーを貼り付け、専用のリーダーかアプリをインストールしたスマホ(※ iphone7 以降、またはAndroid端末のNFC搭載モデル(一部除く)ちなみに記者のAndroidはNFC搭載モデルだったがしようできず)で血糖値を読み取ります。
医療機関で処方してもらうほか、アマゾンなどの通販サイトでも扱っています。価格の目安は7000~8000円程度です。
記者M(61歳・女性)の2週間リブレ体験記
センサーの装着が簡単なことにまずびっくりしました。腕にハンコを押すかのようでした。私は看護師さんにやってもらいましたが、自分で装着したら失敗したということもあるそうなので、そこは慎重に。センサーは、上からを貼っていたおかげか、入浴などでもはがれることはありませんでした。
計測はゲーム感覚でおもしろく、頻繁に測りました。
・チョコレート→115㎎/㎗ 意外と上がらない‼
・ナッツやチーズ→89㎎/㎗ まったく上がらない
・空腹時に白米→140㎎/㎗ 急激に上がる
・シュークリーム→185㎎/㎗ ヤバい!!
などがわかってきました。
急激に上がったあと、かなり下がって「低血糖」の警告マークが出たこともあります。自分は「反応性低血糖かもしれない。気をつけなければ」と思いました。
夜は、食事の前にお酒を飲みながらナッツやチーズなどのおつまみを食べるせいか、白米を食べても130前後と、たいして上がりませんでした。
空腹時にいきなり糖質を食べることがどんなに血糖値を上げてしまうかが、はっきりと数字になって出てくるので、気を付けるようになりました。
2週間でしたが、とても勉強になり、貴重な体験でした。