●本記事は『ゆほびかGOLD』2020年10月号に掲載されたものです。
日本古来の土壁づくりの家屋は感染症対策に有効
もともと陰陽師は、国家規模での地相や大規模家屋の家相を見るのが専門でしたから、古来の家屋にも、陰陽師の知恵が随所に反映されました。
古民家の構造を思い出してください。昔の一般的な日本家屋は、北側を土壁でしっかりと塗り固めて、東・西・南側は、ふすまや障子で部屋を区切っています。ふすまと障子を取り外すと、柱だけになる造りをしています。
なぜ、北側だけを土壁にしたのでしょうか。 直射日光の入りにくい北側には、台所などの水場や排水施設を置くことが多く、食料が腐らないように、土壁で日光を遮ったのです。 さらに、土壁には、驚くべき効果がありました。
土壁の素材である日本の土壌は、善玉菌が多数生息していて、腐敗菌が繁殖しにくいという特徴があります。さらに、土壁に混ぜる藁には、この善玉菌の発酵を促進させる効果があります。
当時の陰陽師は、その効能を知っていて、日本家屋の構造に、その知恵を生かしたと考えられます。
ですから、貴族の屋敷を建設するときは、市街地の汚れた土は使わず、山科や大津から土を運んできて、土壁にしていたそうです。
そして、三方のふすまや障子を閉めていてもすき間から換気できます。もちろんふすまと障子を開け放てば、風通しは抜群です。陰陽師の知恵が結集した日本家屋自体が、優れた感染症対策になっていたのです。
日常的に発酵食品を食べて腸内環境を整えていた
日本の伝統食には、発酵食品が数多く存在します。しょうゆ、みそ、酢、日本酒、納豆、漬物、鰹節、なれ鮨ずしなど、どれも日本の環境で育った麹菌や酵母、乳酸菌などの善玉菌で発酵されています。
発酵することで、日持ちし、味がよくなり、栄養価も上がることを昔から日本人は知っていて、その技を受け継いできました。
例えば、海で獲れた魚を内陸に運ぶときには、塩漬けや粕漬けなどの加工をしてから届けました。 昔の日本人は、日常的に発酵食品を摂取していました。そのおかげで腸内環境が整い、病気に抵抗する免疫力が上がり、健康でいられたのでしょう。
もちろん当時は、詳細な医学的見識があったわけではないでしょうが、体によいということは経験的にわかっていたようです。
また、日本の土壌は、火山灰や火山岩、火山弾などでできており、マグネシウムやカルシウム、カリウム、硫黄、ヨウ素、亜鉛、銅などを含んでいます。
すなわち日本の土には、生命維持に必要とされる主要ミネラルと微量ミネラルの両方が含まれていますから、日本の土壌で育ったものを食べるだけで、ミネラル分の補給になるのです。
日本は、周囲を塩の海に囲まれた島国です。ですから、体に有益な土壌の性質は、外的要因で変わることなく、はるか昔の状態のままで、土壌が維持されているのです。
自然に距離が保たれる装いの作法
平安時代の暮らしぶりが感染対策になっている例はまだあります。
頭に烏帽子をかぶり、手に扇子を持っている男性の正装を思い描いてみてください。
この姿の男性どうしが、街中や宮中で出会ったとして、あいさつを交わすときはどうなるでしょうか。
頭に長い烏帽子をかぶっていますから、お互いに2〜3メートルの間を空けて立ち止まり、頭を下げることになるでしょう。
つまり、烏帽子をつけたままであいさつすると、どうしても人と人との間を空けざるを得ません。
今でいえば、ソーシャルディスタンスが自然に出来上がっていたことになります。
また、男性も女性も、常に扇子を携帯して、隣の人と話すときは必ず、口元に扇子を当てて話すのが習わしでした。
扇子は現代でいえば、飛沫を飛ばさない、マスクのような役割をしていたともいえるのです。
太陽とともに一日を過ごした伝統の暮らしも選択の一つ
僕がファクターXと考えている日本の風土や陰陽師が教えてきた生活様式を見てきました。今こそこうした伝統的な暮らしぶりに見直して、再びたいせつにする生き方が大事なのではないでしょうか。
電気のない昔は、太陽が昇るのに合わせて仕事を始め、午後3時頃には夕飯を食べ、太陽が沈む頃には床に就くというのが一般的な庶民の暮らしでした。
武士などの家では、ロウソクを灯し、太陽が沈んだ後も、仕事や勉学に励むこともあったでしょう。
しかし、いかんせん高価だったため、日常的にロウソクが使えるのは、貴族や武家、豪商などに限られていたようです。
今回、コロナのために在宅勤務になったかたもいるでしょう。 昔のように、朝6時〜午後2時頃まで仕事をして、明るいうちに遊び、日が沈む頃には寝るという生活をしてみるのも選択肢の一つかもしれません。
コロナとの闘いは、当分続きそうです。これからは、新しい生活様式を手探りで見つけていかなければなりません。 僕の提案を一言で表すと、温故知新。伝統的な日本の暮らしの中に、これからの日本人を幸せに導いてくれるヒントがあると思っています。
(おわり)