時間の価値を決めるのは 頭の回転の速さ
日々の仕事や家事に追われていると、時間がいくらあっても足りないと感じることも多いでしょう。
1日は24時間で、誰にとっても平等である……とは限りません。時間には、いくらでも付加価値をつけていくことができるのです。
東京工業大学の本川達雄教授の著書『ゾウの時間 ネズミの時間』に、興味深い記述があります。
ネズミからゾウまで、さまざまなサイズの哺乳類で比べてみると、心臓が1拍打つのにかかる時間や呼吸の周期、妊娠期間、大人(成獣)になるまでの期間、寿命まで、おおよそ「時間は体重の1/4乗に比例する」という関係が成り立つのだそうです。
30gのハツカネズミと3tのゾウでは、体重が10万倍も異なるわけですが、ゾウはネズミに比べて、時間が18倍ゆっくり流れているということになります。
これだけ時間の速さが違えば、時間の持つ意味や価値、その時間を使っての生き方が、動物によって大きく違っても不思議はないということです。
では、私たちヒトにとって、時間の価値を決めているのはなんでしょうか。私は頭の回転の速さではないかと思います。
頭の回転の速さは、自由に変えられないと思っている人も多いでしょう。でも、もし2倍速・3倍速と加速できたらどうでしょうか? 1日24時間という限られた時間を、48時間分にも72時間分にも有効活用できるはずです。それを可能にするのが、「超速脳」を作り出す「速聴き」です。
これによって、本が速く読めるようになるのはもちろんのこと、脳の情報処理速度が上がることによって、思考力、理解力、判断力、洞察力、記憶力、発想力、企画力、さらには集中力、意欲、行動力、並列処理力(複数の物事を同時に考えたり行ったりする能力)、コミュニケーション力といった、さまざまな高次の知的パフォーマンスを生み出す“脳力”(能力)も伸びてきます。
何ともよいことづくめですが、そもそも、なぜ速聴きトレーニングをすることで脳力がアップするのでしょうか。
脳内で音読をする「追唱」の速度は脳の情報処理能力に比例
この点については、脳のしくみが深く関係しています。
私たちが文章を読んだり話を聴いたりしているとき、自分では一瞬で言語の意味を理解しているように感じますが、脳のメカニズムから言うと、そのまますぐに理解しているわけではありません。
言語の意味を理解するに至るまで、簡単に言うと、以下のような3つのステップを踏んでいます。
①本に書かれている文字を見ると、目を通して、文字の形が脳の視覚野で認識されます。人が話しているのを聴くと、耳を通して、その音が脳の聴覚野で認識されます。
②目や耳から入った視覚情報や聴覚情報が、感覚性言語野(ウェルニッケ中枢)に伝えられます。
③脳が改めてその情報を脳内で「音読」します。
もちろん、私たちはふだん、この3ステップを意識しているわけではありませんが、これらのプロセスを踏んで初めて、文章や他者の話の意味を言語として理解できているということです。
つまり、文章を黙読しているときでも、頭の中では常に音読が行われているというわけですが、このように、文章を読んだり、話を聴いたりしたとき、無意識のうちに行っている「脳内音読」行為を、「追唱」と言います。
通常、追唱速度は、脳の情報処理能力に比例しています。脳は、音読して意味をとらえるのにかかる時間に合わせて視覚情報を入力しようとします。ですから、追唱速度が速い人は本を読むのが速く、追唱速度が遅い人は読書も遅いわけです。
もし、この追唱速度を上げないまま、単に目で文字を追うスピードを上げたとしたら、どうなるでしょうか。追唱が追いつかないため、脳は視覚情報を言語としてとらえることができません。ですから、頭の中には意味が何も残らないことになってしまいます。
何の訓練もしていない人が、本に載った文字列にバーッと高速で目を走らせても、意味をつかむことができず、速読にならないのはこのためです。
●脳が情報を処理する流れ
「速聴き&速読」をすると「追唱」の速度が上がる
以上のように、頭の回転を速め速読を可能にするカギは追唱速度なわけですが、速聴きは、これを上げるための絶好のトレーニングです。高速音声をペースメーカーにすることで、自然に追唱速度がアップしていくからです。
また、これまで、さほどがんばらなくても処理できるスピードで与えられていた仕事量を、必死でこなさなければならないほどの仕事量に増やすことで、脳がその仕事をこなすための態勢を取るようになります。というのも実は、脳にはサボり癖があるからです。
脳は、能力にまだ余裕があっても、ほんの一部しか使わないようにしています。脳は体重の2%ほどの重さしかないにもかかわらず、エネルギーの2割近くを消費する器官なので、できるだけ省エネモードでいこうとする生命保存本能が働いているのです。
速聴きのトレーニングを行うことで、この脳のサボり癖を解消し、ふだんは脳が温存している能力を解放できれば、その驚くほどのパフォーマンスに気づかされることでしょう。
大人になっても脳は成長させられる
2倍速、3倍速の速聴き音声を耳にすると、人にもよりますが、最初はなかなか聴き取れずに戸惑ってしまうかもしれません。それでも、意識を集中して何度も繰り返し聴いているうちに、だんだんと音声のスピードに慣れてきます。
脳の順応力は非常に優れていますから、まずは1つひとつの単語が聴き取れるようになり、しだいにそれらの文脈がわかるようになるといったぐあいに、最終的には誰でも必ず理解できるようになります。
これは、繰り返しトレーニングを行うことによって、脳の神経細胞であるニューロンが、樹状突起と呼ばれる腕を伸ばして、新たな情報伝達回路を生み出し、ネットワークが強化された証拠です。
使われていない脳は神経細胞どうしが孤立しているため、本来持っている力を発揮しないまま、眠らせているような状態になっています。速聴きや速読で脳に刺激を与えると、脳神経細胞がお互いに手を伸ばしあい、密なネットワークを作り始めるのです。
また、以前は、脳の成長は子供の頃に終わり、それ以降は退化していくだけと考えられていましたが、現在では大人になっても脳神経細胞が新生することが確認されています。
つまり、老若男女を問わず、脳を成長させられるということです。「もういい年だから」とか「自分の能力では無理だ」などと思うのではなく、「必ずできる!」とイメージして、速聴きを続けましょう。
「速聴き」をしながら文章を読むとより効果が高まる
速聴きをする際にお勧めなのは、速聴きをしながら同じ内容のテキストを読むことです。聴覚と視覚の両方を刺激できるため、効果的に脳力を高めることができます。知識や知恵の吸収率も高まり、潜在意識への働きかけもいっそう効率的になります。
もし周りの状況が許すなら、聴いている内容のテキストを読むときに、口を動かして音読するのもお勧めです。脳内の聴覚野・視覚野・感覚性言語野に加え、声を出してしゃべる働きをつかさどる運動性言語野(ブローカ中枢)までをフル活用し、同時に鍛えることになるからです。
この声を出すというアクションは、あなたの中に取り入れる情報を、いっそう深く潜在意識に浸透させることにもつながります。
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●速聴き音声の例
●本稿は『頭の回転が3倍速になる! 「超速脳」養成CDブック』(マキノ出版)から抜粋再編集したものです。