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【マインドフルネス再入門】”今ここ”に集中する呼吸法で不安・イライラ・パニックが消えひらめき力がアップ!(その4)

ストレスに柔軟に対処できるようになる技法として、一大ブームになった「マインドフルネス」。「今この瞬間」の体の感覚や気持ちに気づく方法です。身につけると体調の管理や感情のコントロールができるようになり、さらには、集中力や創造力を高めることもできます。何度か試したけど忘れてしまったあなた、気になってはいたけど…というあなたへ、再入門記事をお届けします。
世界を広げる心のエクササイズを、ぜひお試しください。

④心をしなやかにしてストレスに強くなる「マインドフルネス」

精神科医 大野 裕先生

「マインドフルネス」は、心のストレスを軽くするのにとても役立つ方法です。

欧米では広く知られており、年齢や性別に関係なく、うつ、不安障害、薬物依存、慢性の痛みの改善や、さらにDV、児童虐待、いじめなど、いろいろなつらい経験をして心に傷を負った人たちがその傷を癒す方法として使われています。

マインド(mind)とは心のこと。マインドフルネスは、自分の心を自由にして、今の自分の体や心の状態に気づく力を育てていきます。そうすることによって、ストレスを軽減するのです。

私たちは、忙しく余裕のない生活をしていると、視野が狭くなりがちです。そんなときに、山に出かけて森林浴をしたりすると、ふーっと心が安らいで自分を取り戻すことができます。それがマインドフルな状態です。

絵画や音楽、座禅や茶の湯などの伝統的な方法も、私たちをマインドフルに導く効果があります。

それを呼吸法で意識的に行うのが今回、ここまで石井朝子先生がご紹介してきた「呼吸のマインドフルネス(今ここ集中呼吸)」です。

ストレスによる心の麻痺を防ぐ

私たちは、つらい経験をすると心が麻痺してしまいます。

以前、東日本大震災で被災したかたのお話を伺ったことがあります。そのかたは地震のとき、ビルの屋上から大きな機械が落ちてくるのを目にしました。そのとき、「ああ、大変だ!」とか「怖い、どうしよう」という感情はなく、ただ「落ちてくる」という事象だけがスローモーションのように認識されたといいます。

このようにつらい経験をすると、感情を麻痺させて心を守ろうとする力が働きます。それが一時的ならまだよいのですが、強いストレスが続くと、感情が麻痺したままになり、心を閉ざすようになります。

「心を閉ざす」というのは、人に対してだけでなく、自分に対しても起きます。自分の心を感じないようにしていると、本来その人が持っている力が出てこなくなります。周りとも関わりが持てなくなり、ますます状況が悪くなります。

そうなる前に、あるいはなったとしても、もう一度自分の感情や感覚、体の状態をじゅうぶんに受け止められるようにしようというのが、マインドフルネスの基本的な考え方です。

過去や未来にとらわれず「今」を大事に生きる

また、過去のことを悔やんだり、先のことを心配したりしてつらい思いをしている人がします。

過去のことを後悔する人は、「なぜ、あんなことをしたのだろう」「なぜ、こんなことが起こったのだろう」と、過去のことで頭も心もいっぱいになっています。

しかし、これには2つの問題があります。1つは、過去は変えようがないということ。変えようのないことをいつまでも悔やんでいるから、つらいわけです。もう1つは、過去にとらわれるあまり、現実が見えなくなっていること。

「失敗は成功の母」とよく言いますが、今、そしてこれからという現実に目を向ければ、つらい経験も学びの1つとして生かすことができます。そうすれば、つらいことでは終わらなくなるわけです。

一方、先のことを考えると不安でいっぱいという人は、この先に起こるであろう悪い点にばかりとらわれてしまっているのです。

人生には、いつ何が起こるかわかりません。ということは、可能性もたくさんあるということです。悪いことばかり考えるのではなく、今をしっかり受け止めて、可能性を引き出すために今から何をするか、ということがたいせつなのです。

つまり、過去にとらわれず、未来を変えるには、「今ここを大事にする」ということが大原則です。

自分を取り戻す効果がある

私はかつて、茶道家の藤村道代さんが考案された「茶の湯セラピー」という癒しの手法を何度か体験しましたが、これは日本的なマインドフルネスとしておもしろいと感じました。

茶の湯というのはその昔、僧や貴族、武士、商人が、自分を取り戻す場として作り出したものです。自然の中に行かなくても、非日常の小さな空間の中でリラックできるように、と茶室を作ったわけです。茶室というのは非常によくできていて、五感を刺激するしかけが多数あります。

例えば、炭でお湯を沸かすと、炭がパチパチはじける音や、シューシューとお湯が沸く音が聞こえます。室内には掛け軸や花があり、居ながらにして視覚的に季節感を味わうことができます。お茶や和菓子の色、香り、温度、味、感触なども、五感を心地よく刺激します。

感覚というのは、「今、この時」しか得られないものです。お茶をたしなむ、という行為そのものが、今を大事にすることにつながるわけです。

「呼吸のマインドフルネス」には、茶の湯や森林浴で自分を取り戻すのと同様の効果があると思います。

皆さんもマインドフルネスを活用して、日常のストレスに立ち向かい、しなやかで、粘り強い心を育てていってほしいと思います。