①余った糖が脳のゴミになり認知症を招く
②甘い物の食べ過ぎで脳の機能が狂う
③アルツハイマーを引き起こす4つのメカニズム
④腸の状態が脳に影響する。歯周病菌も脳に炎症を起こす一因(本記事)
⑤殺菌・整える・育てるの3ステップ! 腸から脳をスッキリ掃除する熊谷式食事術
認知症の患者さんは腸内環境がよくない
私が認知症の患者さんを本格的に診るようになったのは、30年近く前です。このとき、最初に気づいたのが、認知症の患者さんは便秘の人が多く、便の臭いが強い、ということでした。
とりたてて病院の食事や環境に問題があったわけではなく、実はこのことは、認知症治療の現場では、よく知られている事実だったのです。
また、便秘がちの認知症患者さんは、夕方になると徘徊したり、興奮して怒りだしたり、ぼんやりして動かなかったりするなど、便秘ではない認知症患者さんに比べて、問題行動が多く見られたのです。
以上の事実から、私は認知症を発症するメカニズムには、腸内環境の悪化も関わっているのではないかと考えるようになりました。この現場での実感は、近年になって、続々と実証されてきています。
実は、腸内細菌の状態は、脳にダイレクトに伝わります。しかも、それによって脳の機能が左右されているのです。

例えば、乳酸菌を与えたマウスは、無菌状態のマウスと比較すると、ストレス耐性が強くなりました。しかし、腸と脳を結ぶ神経を切断してしまうと、その差は見られなくなります。
これは、腸から脳へと情報伝達が行われ、脳でのストレス耐性が増すことを示しています。このように、腸と脳が互いに影響しあう関係は、「腸脳相関」と呼ばれます。
腸脳相関によって、認知症の発症にも腸内細菌が関わっていると考えられます。では、具体的にどんなことが要因となるのでしょうか。判明していることを3つほど紹介しましょう。
腸の状態が脳に影響する
❶ドーパミンの分泌に影響
通常のマウスと、腸内の善玉菌がない無菌マウスの脳を比較したところ、無菌マウスでは「ドーパミン」という神経伝達物質が、2倍以上多く分泌されていました。これはドーパミンの産生に、腸内細菌が何らかの形で関わっていることを示しています。
ドーパミンは意欲や運動機能の調節に関わっていますが、過剰になると、脳が興奮した状態になります。反対に不足すると、無気力や物忘れ、集中力の低下などの症状が現れます。
こういったドーパミンの分泌異常が、アルツハイマーの発症や悪化の一因となる可能性があります。
❷短鎖脂肪酸の減少
短鎖脂肪酸は、脳も含めた全身の細胞のエネルギー源として利用される物質です。その産生には「酪酸産生菌」と呼ばれる腸内細菌が関わっています。
腸内環境が悪化すると、酪酸産生菌の活動が鈍ります。すると短鎖脂肪酸の産生が減りますが、その結果、インスリンの分泌量が減少することが近年わかってきました。
インスリンの不足は高血糖や糖尿病を招き、前述のように認知症の発症要因となります。
また、エネルギー源である短鎖脂肪酸が不足しているときに、低血糖になると、脳神経細胞は深刻なエネルギー不足となり、ダメージを受けます。
❸脳に必要な栄養素の不足
腸内細菌は、私たちの生命を維持するのに必要な栄養素の消化吸収や産生にも関わっています。例えば、たんぱく質は腸内細菌によってアミノ酸に分解されて初めて、体内に吸収できます。
そのほか腸内細菌は、ビタミンB群やビタミンKなどのビタミン類も、腸内で作り出しています。これらはどれも必要不可欠な栄養素。腸内環境が悪化して、これらの栄養素が不足すると、脳の機能にも悪影響があります。

歯周病菌も脳に炎症を起こす一因
腸の状態は、腸内細菌とは異なるしくみでも、脳を含む全身の健康に影響を及ぼしています。
前項で、血液脳閑門について述べましたが、同じしくみは腸壁にもあります。栄養分だけを腸壁から血管へと通し、体に有害なものは通さないのです。
ところが腸内環境が悪くなると、腸壁に炎症が起こり、細胞どうしの結合が緩みます。すると、腸壁に穴が開いたような状態になり、本来なら通れないはずの有害な物質が血管内に移行。これが、アレルギーや自己免疫疾患(※)の一因となります。
私は脳内でも同じ現象が起こり、認知症の発症要因になっているのではないかと推察しています。炎症によって血液脳関門の機能が失われ、有害物質が脳に侵入して、脳神経細胞を壊すというメカニズムです。
この脳の炎症を引き起こす一因となるのが、歯周病菌です。歯磨きで出血することからもわかるように口の中の粘膜は破れやすいのですが、その傷口から血流に乗って菌が脳に入り、炎症を起こすことがわかっています。
腸もそうですが、口の中にも、膨大な数の細菌がいます。その状態をよくすることが、脳の健康維持には欠かせません。
ちなみに、最新の遺伝子解析技術で調べたところ、腸内には1000種類以上、数百兆個もの菌が生息していることがわかりました。遺伝子の割合でいうと、人間由来のものはわずか1%。あとの99%は腸内細菌のものだったのです。
この圧倒的な数を見ると、私たちはこれらの菌と上手につき合わなければならないことがわかります。
私たちの健康をサポートする善玉菌を増やし、悪玉菌は撃退する食生活を心掛ければ、認知症だけでなく、がんや新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気が予防できると思われます。その具体的な方法を、次項で解説しましょう。